希望がないってことに希望があった

 

昔のことを思い出した。長く続けていたサッカーは怪我したのを機に辞め、周りの意識高い連中や、大学受験予備校のようで退屈極まりなかった高校の授業や、平気でファンを食べてしまうニコニコ動画出身のアーティストに辟易とし、放課後、友達とガストでPSPをしながら気に入らない教師や同級生、北朝鮮の悪口などに花を咲かせていた。その友達はよく「あー面倒くせえ」「下らねえんだよな」とブツブツ呟いていたが、それは周りのつまらない大人に向けていたのか、はたまた社会全体に対しての文句であったのかは今でもよくわからない。

 

久しぶりにそいつと会う機会があり、新宿で酒を酌み交わした。「あー面倒くせえ」や「下らねえんだよな」と常にイライラしていたやつにはいま奥さんがいて赤ちゃんがいた。高校生から吸っていた煙草は奥さんの妊娠を機に辞めたと聞いた。三人で写った写真も見せてくれた。奥さんは指原莉乃坂口杏里を少しブレンドしたような顔立ちをしていて「磨けば光るな」と思った。赤ちゃんは生まれたての顔をしていた。ピッチリとストライプが入ったスーツの胸ポケットにいつ掛かるかわからないからと首から下げた携帯電話を入れたそいつに当時のあいつはもういなかった。俺は嬉しいような哀しいような気持ちになったけど「でもそういうことだよなあ」と心の中で自分を納得させてホッケをムシャムシャ食べてビールを飲み干した。当時よく聴いていたバンドの「希望がないってことに希望があった」という歌詞の意味がいまならわかるかなあと思った。

NOUNEN "CRYSTAL" RENA

 

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能年玲奈について書こうと思う。僕が最初に彼女の存在について知ったのは確か大学に入って間もなくの頃であったと記憶している。芸能ニュースを常にキャッチしている東海林のり子のような女友達からある日一通のメールが送られてきた。「ヤババーイ」と一言添えられて送られてきたその写真には淡いセピア調の背景に色鉛筆を咥えた能年玲奈が写っていた。その美しさたるや、当時なぜか指原莉乃を可愛いと思っており美という概念を忘れていた僕にとって百合のように可憐で青く澄んだ彼女の存在は魂の救済、神からの福音だった。その後、この奇跡の存在は民衆の注目を浴び朝ドラのマリアとなっていく。連続テレビ小説あまちゃん」が放送されていた当時、僕は欠かさず朝シャンをしていた。彼女の生きた姿を拝むには常に清潔でないといけないという想いが強く出た結果である。初の大型ドラマ主演に懸命に応えようとイキイキとした演技を見せる彼女はあまりにも眩しかった。マイプレシャス玲奈は皆の太陽になった。僕だけを照らしてくれてるというサイコパスで一途な想いは空に散った。

 

その後の活躍は周知の通りである。そして今現在、彼女にとってテレビという世界は窮屈なものになってしまった。彼女が描こうとしている絵に芸能界というキャンパスはあまりにも狭過ぎるのかもしれない。鳥カゴの中では鳥は全力で羽ばたけない。彼女にとっての青空はいったいどこにあるのだろう。もうどんな形でもいい、また再び彼女が無垢で純粋なあの笑顔を見せてくれる日々が戻るよう僕は祈り続ける。聖書であるファーストフォトブック「ぐりぐりぐるみ」を抱えながら。

 

 

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KOMEDA LIFE

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あなたはコメダ珈琲をご存知だろうか。東証一部上場のニュースを受けてわかるように名古屋発祥のこのコーヒーチェーン店はここ首都圏でもとてつもない勢いで進出・展開している。スタバやドトールのような素早く買う・飲む・出るといったセルフオーダーシステムをガン無視した昔ながらのクラークオーダー式、ゆったりとした空間、喫煙者を人として扱ってくれる。それら全てが時代と逆行している。しかし、それが良い。好き。スタバのような大学サークルノリとは真逆の素朴な店員ばかりのこの店に僕はすっかり虜となってしまった。

 

 

先にも挙げたように、ゆったりとした空間が売りのコメダは席の間隔が広く、加えて抜群の座り心地を放つ真っ赤なソファ、安定したWi-Fi、電源など長時間の利用をするのにとても適している。スタバはサークルの部室だし、ドトールの喫煙ルームはブタ箱のような狭さである。今となれば僕がここに落ち着くのは至極当然なことであったようにも思える。仕事の休憩時、用事を迎える前の時間潰し、いろんなものを失った飲み会を経たあとの朝、日常の様々な場面でここコメダは僕を実家のような安心感で迎え入れてくれる。僕はそれに甘えてしまう。ここに居たら自然と優しい気持ちになれる。だけどこんな世の中、優しさだけでは生きていけないのはわかってる。わかっているけどそんな自分を嫌いになれない。そんな自己との葛藤に苛まれながら僕は今日もたっぷりアイスコーヒー(無糖)を注文する。

 

 

 

コメダ、ありがとう。これからもよろしく。

 

 

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