希望がないってことに希望があった

 

昔のことを思い出した。長く続けていたサッカーは怪我したのを機に辞め、周りの意識高い連中や、大学受験予備校のようで退屈極まりなかった高校の授業や、平気でファンを食べてしまうニコニコ動画出身のアーティストに辟易とし、放課後、友達とガストでPSPをしながら気に入らない教師や同級生、北朝鮮の悪口などに花を咲かせていた。その友達はよく「あー面倒くせえ」「下らねえんだよな」とブツブツ呟いていたが、それは周りのつまらない大人に向けていたのか、はたまた社会全体に対しての文句であったのかは今でもよくわからない。

 

久しぶりにそいつと会う機会があり、新宿で酒を酌み交わした。「あー面倒くせえ」や「下らねえんだよな」と常にイライラしていたやつにはいま奥さんがいて赤ちゃんがいた。高校生から吸っていた煙草は奥さんの妊娠を機に辞めたと聞いた。三人で写った写真も見せてくれた。奥さんは指原莉乃坂口杏里を少しブレンドしたような顔立ちをしていて「磨けば光るな」と思った。赤ちゃんは生まれたての顔をしていた。ピッチリとストライプが入ったスーツの胸ポケットにいつ掛かるかわからないからと首から下げた携帯電話を入れたそいつに当時のあいつはもういなかった。俺は嬉しいような哀しいような気持ちになったけど「でもそういうことだよなあ」と心の中で自分を納得させてホッケをムシャムシャ食べてビールを飲み干した。当時よく聴いていたバンドの「希望がないってことに希望があった」という歌詞の意味がいまならわかるかなあと思った。